大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所小倉支部 平成5年(ワ)1325号 判決

原告

勝田博文

永井亮一

原告ら訴訟代理人弁護士

前野宗俊

中村博則

吉野高幸

住田定夫

配川寿好

荒牧啓一

河辺真史

前田憲徳

蓼沼一郎

林健一郎

梶原恒夫

被告

学校法人九州女子学園

右代表者理事

近藤貢

右訴訟代理人弁護士

春山九州男

高橋浩文

主文

一  原告らが、被告に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告勝田博文に対し、金八九八万九七四二円及び平成八年二月一日から本判決確定に至る月まで毎月一八日限り金二四万二九六六円宛を支払え。

三  被告は、原告永井亮一に対し、金一〇七〇万五〇六二円及び平成八年二月一日から本判決確定に至る月まで毎月一八日限り金二八万九三二六円宛を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、第二、三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文一ないし三項と同旨

第二  事案の概要

本件は、被告の経営する九州女子学園高等学校に教師として勤務していた原告らに対し、被告が、原告らにおいてその就業規則に違反して、煙突の林立、リボンの着用、ビラの掲示・配布等の違法な組合活動をしたとして、懲戒解雇処分をなしたことから、原告らが被告に対し、その解雇処分が無効であるとして、労働契約上の地位の確認及び未払分の賃金の支払を求めている事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告勝田博文(以下、「原告勝田」という。)は、昭和五一年四月から、原告永井亮一(以下、「原告永井」という。)は、昭和三七年四月から、被告の設置経営する九州女子学園高等学校に教師として勤務しており、同高等学校内の教職員からなる九州女子学園高等学校教職員組合(以下、「本件組合」という。)にいずれも所属し、原告勝田は平成三年より副委員長、平成五年五月より委員長、原告永井は昭和六〇年より書記長の地位にそれぞれある。

一方、被告は、昭和八年に創設された女子普通科商業教育を行う学校法人である。

2  労使紛争

本件組合は、平成四年度の団体交渉で、被告が、賃金の改善や学園の民主化等の事項に関して誠実に交渉に応じないとして、同年八月二一日から同年一二月三日までの間に、これに抗議するために、その旨の記載された紙製の円筒(以下、「煙突」という。)を職員室内に林立させたり、「団結」等と記載されたリボンを職場内で組合員に着用させたり、あるいはこれを訴える内容のビラを生徒を通じて父兄に配布させるなどの活動をなした。

3  懲戒解雇処分

被告は、原告らに対し、平成四年一二月二六日、大要次の理由により、原告らの指導に基づき違法な組合活動がなされたとして、懲戒解雇の意思表示をなした(以下、「本件懲戒解雇処分」という。)。

(一)(1) 煙突闘争

平成四年八月二一日から同年一〇月一四日まで、同月一六日から同年一二月四日までの間、それぞれ多数の生徒が出入りする職員室において、組合員の机上に、「日本庭園マスコミに訴えるぞ」、「魚町に行かず学校に来い」、「いらん物を作るな。貧乏人を苦しめるな」等の文言を記載した煙突を作成して林立させた。

(2) リボン闘争

同年九月一日から同年一二月四日までの間、組合員の胸に「団結」、「闘争団結」あるいは「学園の民主化」と記載したリボンを着用させた。

(3) 職員室内におけるビラの掲示

職員室内において、本件組合員のロッカーや机上に組合ビラを掲示した。

(4) プラカードの掲示

同年一二月五日、「ワンマン許すな」、「九州女子学園民主化」と記載したプラカードを本件組合の当時の委員長堀口征宏(以下、「堀口」という。)の職員室机上に掲げた。

(5) 教室内でのビラの掲示

同年一〇月三日、一一月一〇日、一一月二九日、教室に「パラボラアンテナ、何の為にある。」、「いらぬことに金使うな」などと記載したビラを掲示させた。

(6) 生徒に対するビラの配布

組合教宣ビラを全生徒に配布し、生徒を混乱に陥れた。

(7) 会議室内での労働歌の合唱

同年一二月二六日(実際は一〇月)、本件組合に使用を許した学園会議室において労働歌を合唱した。

(8) 学園不祥事の新聞社通報

同年一二月九日、朝日新聞記者に対し、一教師と生徒間の交遊を通報して、翌同月一〇日の朝刊に「生徒にいたずら、教諭退職」との見出しの記事を掲載させた。

(二) 就業規則違反

第六二条二号(勤務成績不良で改善不可能)、三号(信用毀損)、四号(秘密事項の暴露)、一〇号(越権専断による秩序紊乱)の各懲戒解雇事由に該当する。

二  争点

1  原告らの組合活動の正当性の有無

(一)(原告らの主張)

本件組合がなした煙突闘争、リボン闘争、職員室の組合ビラの掲示、生徒へのビラの配布は、いずれも団体交渉に誠実に応じない被告に対して、やむをえずとった争議行動であって、正当な組合活動である。

被告が主張する組合活動のうち、プラカードの掲示はたまたま職員室の机上にあったものであり、また、教室内のビラの掲示及びデモ行進への生徒の参加は、生徒の自主的な活動によるものであって、本件組合とは無関係になされた行為である。そして、被告教諭による学園不祥事の新聞社通報、労働歌の合唱については、本件組合は行っていない。

従って、被告主張のような就業規則の懲戒解雇事由に該当しないし、かつ組合活動としても違法ではない。

(二)(被告の主張)

一般に労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労働にのみ従事しなければならないというべきところ、原告らがなした前示の懲戒解雇事由のほか、生徒を同伴した提灯デモ、学級日誌を通じた経営者に対する誹謗中傷及び授業を通じた生徒に対する組合宣伝活動等は、被告の施設管理権を侵害し、教育の中立義務や職務専念義務に違反し、かつ、被告の就業規則八条(学園内の組合活動・政治活動の禁止(一四号)、示威行為・宣伝活動の禁止(一三号))にも違反しているのであって、違法な組合活動である。

2  本件懲戒解雇処分の相当性の有無

(一)(原告らの主張)

原告らには右のとおり就業規則の懲戒解雇事由に該当しないのは勿論、違法な組合活動もないのであって、被告による原告らの本件懲戒解雇処分は、正当な組合活動に対する制裁措置であって、却って不当労働行為に該当するばかりか、解雇権の濫用に該当し、裁量の範囲を逸脱した無効なものである。また、原告らを懲戒解雇するについて就業規則六六条の有効な懲戒手続も履行されていない。

仮に本件組合の活動に若干の違法性があったとしても、未だ懲戒解雇処分を相当とする程度の事情はなく、本件懲戒解雇処分は重きに失するものである。

(二)(被告の主張)

教育の中立性は、学校教育の基本であり、殊に自我に目覚め、多感な思春期にある高等学校教育にあっては、このことはとりわけ注意されなければならない。学校は、公立私立を問わず、公の性質を持つものであって、教員は全体の奉仕者であり、自己の使命を自覚しその職務の遂行に努めなければならないところ、本件組合は、学園の秩序や規律を乱したばかりか、生徒に対し、一方的に組合の正当性を宣伝し、理事長を初めとする学園管理者を非難し、無能呼ばわりするなどして生徒を巻き込み、教師としての分別をわきまえない行為をなしたものであるところ、委員長の堀口はもとより、副委員長の原告勝田及び書記長の原告永井は、それぞれ組合の幹部として右違法な争議行為を指揮・指導したものであるから、原告らの責任は極めて重大であり、懲戒解雇事由に該当し、被告の本件懲戒解雇処分については、相当性逸脱はない。

また、懲戒手続も適式に実施しており、手続の不履行もない。

第三  判断

一  本件懲戒解雇処分に至る事実経過

前期争いのない事実に証拠(甲一、二、四、六ないし二七、四二ないし四五、五七ないし六〇、乙三ないし一五、一六の1ないし10、一七ないし二三、二五の1ないし6、二六ないし二九、証人近藤俊一、原告勝田及び同永井各本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告らが所属する本件組合は、昭和三五年頃に、被告の教職員をもって結成された労働組合であり、本件懲戒解雇処分当時、執行委員長には堀口が就任していた。昭和五九年、本件組合から九州女子学園高等学校職員組合が分裂し、原告勝田が執行委員長を務めていたが、被告の生徒数が減少し、賃金も他の高校と比して低いこと等から、平成三年六月には、両組合が再び統一されることになり、現在に至っている。平成四年度の被告学園の生徒数が約五五〇名、職員数二五名のうち組合員が一五名であった。

なお、本件組合は、昭和三六年、福岡県私立学校教職員組合連合(以下、「県私教連」という。)及び全国私立学校教職員組合連合に各加盟し、その後、平成四年一二月一四日には北九州地区労働組合総連合(以下、「労連」という。)に加盟している。

2  本件組合結成以来、労使間の団体交渉は、組合が毎年一月から三月にかけて県私教連統一要求書及び単組要求書を被告に提出し、四月から五月にかけて、再度統一要求書及び単組要求書を提出し、六月から七月にかけて、被告から団体交渉日の通知を受け、以後、二、三回の交渉を経て七月頃には妥結するというのが常態であった。そして、妥結の際には、確認書が取り交わされることもあったが、理事長との口頭での約束が多かった。

殊に昭和五九年の組合分裂後は、組合の力が二分され団体交渉は必要に応じて開かれたが、労使間に格別の問題が発生したことはなかった。

平成三年度には、二月と六月に県私教連統一要求書及び単組要求書を被告に提出し、七月に団体交渉が行われ、同年七月二七日に、本件組合と被告との間に、交渉が妥結し、平成三年度ベースアップ一律二万五〇〇〇円、授業超過時間一時間について一〇〇〇円の手当の支給、交通費実費の支給が確認された(甲四五)。また、平成三年度の団体交渉の結果、有給休暇の完全消化及び次年度繰越し(但し上限四〇日)及び休暇届用紙の変更等がその後実施された。

3  ところで、平成三年四月、教頭が交替し、前職が北九州大学の学生課長で、教頭資格(教員職歴五年が必要)が充たず、かつ被告の定める定年年齢六二歳を超える渡辺が教頭職に就任した。また、平成四年四月には、被告理事長兼校長であった近藤貢(以下、「貢理事長」という。)の息子近藤俊一(平成五年四月からは校長、以下、「俊一副校長」という。)が副校長に就任した。

同年四月四日には従来通り学園の進路指導、教務及び指導の三部長の公選が行われた。

ところが、同月二七日に、被告は経営コンサルタントの富永及び中島昭一事務長兼理事(以下、「中島事務長」という。)を介して本件組合に話し合いを求めてきた。その際、富永から、堀口や原告らに対し、「授業以外に汗を流せ。」、「能力給にする。」「事務は計算のみで授業料の取り立ては担任の仕事。」等の発言がなされ、学園の再建案について一方的な話がなされた。

本件組合は、これより先の同年二月一五日、被告に対し、県私教連統一要求書及び単組要求書(甲七)を提出し、単組要求として平成四年度の賃金引き上げのほか、平成三年度協定事項の速やかな実施及び学園の民主化等を交渉議題とする団体交渉の申し入れを行っていたが、同年五月一日、再度団体交渉申し入れ書(甲八)を提出し、単組としては、平成三年度の協定事項の実施と渡辺教頭の採用に関し定年制の厳守等を要求し、団体交渉を求めた。

4  被告における従来の団体交渉は、事前に事務折衝を行うことなく、本件組合が被告に対し交渉を申し入れ、適宜被告がこれに応ずるという形態であったが、組合側で組合員に有利な賃金表を作成したり、予め作成していた確認書を示してにわかに承認を迫ることがあったり、交渉議題が交渉中に変更されたりした経緯もあったことから、被告は、平成四年度の団体交渉からは、事前に事務折衝を行ない、日時・場所・時間・出席者・交渉議題を相互に確認する方式を採用することとし、同月一八日、同年四月と同様学園の再建案を提示するとともに、今後団体交渉を行うについての事前の事務折衝を求めた。

これに対し、本件組合は従前通りの団体交渉によるべきであるとして右申し入れを拒絶した。

5  本件組合は、同年六月一三日に再度団体交渉申し入れ書(甲九)を提出して、賃金要求、教育労働条件の改善(殊に専任教員の持時間を一六時間以下とすること)、週休二日制の早期検討、私学助成運動への理事会・教職員・父母の三者協力による取組み及び定年制の厳守(定年年齢をこえる渡辺教頭に関するもの)等を交渉議題として団体交渉を申し入れた。

そして、同月二二日に、一回目の団体交渉が実施され、本件組合からは、堀口、原告勝田、原告永井ほか三名が、被告からは、貢理事長、俊一副校長、渡辺教頭、中島事務長、富永が出席した。その際、本件組合側が、かねてより渡辺教頭の教頭資格に疑義を呈し、団体交渉の議題にしていたにもかかわらず、被告側から渡辺教頭が出席していたため、本件組合が、同人の出席を背信行為として拒絶したところから、議題に入らないまま、被告側が退席したため、同交渉は終了した。

6  その後、本件組合は、同年六月二六日、渡辺教頭の団体交渉への参加の有無に関する(甲一〇)、同月二九日、夏期一時金の支給に関する(甲一一)各回答の要求書を提出し、さらに、同年七月六日には、団体交渉の申し入れを行い(甲一二)、これに対し、被告側では、事前折衝を求めたが、渡辺教頭の出席問題もあって難航し、団体交渉はもたれなかった。

そして、同月一七日、被告が、本件組合に対し、事前折衝を前提とし、右折衝を経ない団体交渉についてはこれを拒否する姿勢を示した。

そこで、本件組合は、右のような被告の度重なる団体交渉への対応に対し、平成四年度の団体交渉の実現は情勢が厳しく、その要求を貫徹するために、本件組合大会を開催して、スト権を確立した。

7  同年八月二一日、本件組合は被告に対し、再度団体交渉申し入れ書(甲一三)を提出し、平成元年度・二年度の新任教員の夏期手当未支給、平成三年度団体交渉における理事長発言の背信行為、定年制の厳守、平成四年度賃金改善、私学助成運動の協力体制の確立、学校五日制検討委員会の設置、専任教員の増員等を交渉議題とする団体交渉を求めたが、当日の団交申し入れであって時間がなく、かつ予め事前折衝も経るべく、被告は、右申し入れを拒否する旨の回答をなした(乙二五の1)。

同日には、県私教連から、森忠聖委員長(以下、「森委員長」という。)、同北九州支部の川原支部長らが被告を訪れ、堀口委員長とともに、俊一副校長、渡辺教頭らと話し合いが持たれ、今後の労使間の交渉には、県私教連も関与することとなり、県私教連から本件組合に対し、事前折衝の受入れを促す助言がなされた。

8  以上の経過を経て、被告の団体交渉への対応の抗議と団体交渉を要求して、本件組合は、同日以降前示煙突闘争を実行するに至った。

煙突は、ボール紙を筒状になして色画用紙が貼付され、その表面に黒字で、前示のような文言のほか、「生徒のことを考えて学校を運営せよ」、「生徒の進路実態に応じた教育活動を」、「学校運営の民主化」、「賃金体系の改善」、「世間並の給与を」、「県下最低賃金打破」、「経験年数を認めよ」、「専任教師の持時間を削減せよ」、「働きやすい楽しい学園職場作り」、「理事長は団交に応ぜよ」、「人事採用の公正化」、「定年制の厳守」、「団体交渉拒否、不当労働行為」、「私学助成運動の協力体制を」等と記載されており、各煙突は、同日から同年一〇月一四日までの間、組合員の机上に複数立てられた。

また、本件組合は二学期の始まる同年九月一日から、前示リボン闘争を併せて実行し、同年一二月三日までの間、本件組合員は、職場の中で授業中も含めて「団結」「闘争団結」あるいは「学園の民主化」と記載された赤色のリボンを胸に着用した。

さらに、同年九月一日本件組合は職員室内において、組合員のロッカーに要求を訴える内容の「九教組ニュース」のビラを張り付けた。

9  これに対し、同日には、被告から本件組合に対し、同月五日に事前折衝を行う旨の申し入れがなされた(乙二五の2)。

そこで、同月五日、本件組合から、堀口、県私教連から森委員長、川原支部長、被告から、俊一副校長、中島事務長が出席して、事前折衝が実施された。その際、本件組合は、先の同年八月二一日に提出した交渉議題に補習時間、事務職員解雇、学園の民主的運営、人事組織の民主化(部長公選制)、被告職員の専門学校通学、評議員の人選といった各議題を附加した団体交渉申入れ書(甲一四)を提出し、両者間に同月七日に右各事項につき団体交渉を行う旨の確認書(甲一五)が交わされた。

10  同月七日、団体交渉が実施されたが、本件組合からは、堀口、原告勝田、原告永井ほか三名、県私教連から森委員長、川原支部長が、被告からは、俊一副校長及び中島事務長が出席した。

同日の交渉は、主に本件組合から堀口を中心に右要求項目に関する説明がなされたが、被告側から理事会で検討して次回に回答することになった。

同月一四日、堀口と俊一副校長らとの間で事前の事務折衝がなされ(乙二五の6)、同月一七日に前回の継続事項について団体交渉が実施されることとなった。

同月一七日は、本件組合からは、堀口、原告勝田、原告永井ほか三名、被告からは、俊一副校長、中島事務長が出席した。県私教連の森委員長、川原支部長も同席した。その際、被告側から賃金についての回答がなされたが、組合の要求とはかけ離れており、また、その余の本件組合の民主化要求等については、理事長の権限である、あるいはうけたまわっておくなどとの回答がなされたため、交渉は妥結せず、後日交渉をさらに引き続き行うこととなった。

同月二〇日ころには、職員室のロッカーに本件組合の要求を訴える内容の「九教組ニュース」のビラがさらに貼られた。

11  被告は、同月二八日、本件組合に対し、職員室内の煙突・ビラの撤去、リボンの着用の中止を求める警告書を発した(乙一七)。

本件組合は、同月三〇日、警告書に対して抗議文を提出し、同年一〇月二日には、同年九月五日に確認した団体交渉要求項目を提出した。そして、同月三日、事務折衝の申し入れを行ったところ、被告は、賃金交渉に限って折衝を行うと回答したため、事務折衝は行われなかった。

同月八日、本件組合の再度の申し入れに対し、事務折衝が行われたが、その際にも、被告から賃金のみの折衝を行うとして、その余の民主化要求等についての折衝を拒絶された。しかし、さらに同月一二日、本件組合は事務折衝を申し込み(甲一七)、同月一四日には、被告の誠意ある回答を期待し、一旦煙突を撤去した。

そして、同月一五日に事務折衝が行われたが、被告側において、賃金交渉に限っての交渉には応じるが、その余は学園の所轄であるとの回答のままであったため、本件組合は、再度煙突闘争に入り、従前の約二倍の煙突を立てた。

12  これに対し、同月一六日、被告から本件組合に対し、職員室内の煙突、ビラの撤去とリボンの着用を中止することを命じる警告書(乙一八)が発せられた。

なお、同月六日から三〇日にかけて、委員長の堀口の机上に、「九州女子学園民主化、ワンマン許すな」と記載されたプラカードが立てられていた。

また、同月一七日及び一九日の二回にわたり、本件組合は被告に対し、警告書に対する抗議文を提出したところ、一九日には、受け取りを拒絶された。

同月二四日、本件組合は県私教連と共に団体交渉の申し入れをし、県私教連の抗議文及び要求書も提出したが、同月二六日には、被告から、再び学園の民主化問題については団体交渉を拒否する旨の回答がなされた。同月二七日理事長への面会申し入れと共に、団体交渉の申し入れ(甲一八)をなしたが、同月二九日には、再度拒否された。

13  同年一一月四日、本件組合は被告に対し、団体交渉を申し入れ、さらに、本件組合からの依頼を受けてPTA副会長による俊一副校長の説得などが行われたが、被告から格別の対応はなかった。

そこで、本件組合は、同月五日、闘争スケジュール(甲二〇)を被告に通告し、翌六日始業時前の五分間の朝礼についてストライキを実施し、終礼後、本件組合員が各学級の生徒に対し、父兄に配布するよう指示して、「九女のみなさんへ」と題するビラ(乙一二)を配った。

右ビラには、「みなさん、ご存じですか。みなさんの教育を受ける権利がひどく侵害されていることを」という見出しが掲げられ、渡辺教頭が学校教育法に定める教頭資格である五年以上の教員経験を充たしていないこと、貢理事長(校長)が同年一〇月一二日から同年一一月五日まで、学校に登校していないこと、学級定員の問題、私学助成金及び授業料の使途、被告教職員の賃金が県下でも最低の水準であること、本件組合が、被告の教育が民主的に行なわれるよう闘っていく旨が記載されている。

14  同月七日には、午前八時二五分から三〇分まで実施される朝礼についてストライキが実施された。

終礼後、組合員が、再び生徒に対し、前回同様、父兄への配布を指示して、「九女を救え」と題するビラ(乙一三)を配った。

右ビラには、「許せぬ近藤理事長・近藤俊一副理事長のワンマン独裁」、「理事長・校長に経営能力はあるのか」、「教育活動を全く行なわない理事長・校長」、「理事長の日常の言動」、「理事長は学園再建努力をしているのか」、「立上る九女教職員組合」の各見出しのもと、貢理事長・俊一副校長に対する批判を内容とする文面が記載されている。

また、本件組合は、同日、団体交渉申し入れ書(甲二一)を再度提出した。

15  同月九日、団体交渉拒否の回答がなされたため、本件組合は、午前八時三〇分から四〇分までの一〇分間のホームルームについてストライキを実施した。

翌一〇日には、午前八時三〇分から四〇分までのホームルームと午前八時四〇分から午前九時三〇分までの一時限目とを合わせた始業時の一時間についてストライキを実施した。

さらに、同月午後五時三〇分から、北九州市内の門司駅前において、団体交渉拒否に対する県私教連北九州支部抗議集会を開き、地域の住民にビラを配布するとともに、同所から貢理事長(校長)宅を経由して被告所在地まで提灯をもってデモ行進を行なうとともに、同理事長宅前においては、抗議のシュプレヒコールをしたが、その際、生徒も参加した。デモの事実は、翌日地方新聞でも取り上げられた(乙一四)。

16  同月一二日、本件組合は団体交渉を申し入れた(甲二二)。これに対し、被告は、本件組合に対し、同月一七日、これを拒否すると共に、生徒へのビラの配布とデモ行進に生徒を参加させたことに対する警告書(乙一九)を発した。

これに対し、同月一九日、本件組合は、団体交渉拒否及び警告書に対する抗議文を提出した。

右のように両者の対立が深まる一方で、同月二五日、被告代理人の春山弁護士との接触結果を踏まえて、県私教連の森委員長らが本件組合に対し、事態収拾の確認書案(甲二四)を提示する一方で、翌二六日春山弁護士に対しても右確認書案を提示し、右弁護士及び森委員長らが両者の仲に入って事態の打開を計った。

なお、同月二八日、本件組合は、被告に対し、冬期一時金の支給に関する要求書(甲二三)を提出した。

17  同年一二月三日、本件組合においてリボン・煙突闘争を中止し、同月五日、両者を各代表して貢理事長と堀口委員長との間に、労使紛争を解決し、正常な労使関係の構築のために、職員会議の開催、団体交渉のルール設定(交渉事項は賃金のほかに、運営委員会、教頭・部長・学年主任の選出方法、人事採用制度、教職員代表の評議員の選出方法と評議員会の運営、私学助成運動、学校五日制検討委員会の設置、校舎の改築や施設改善)等を定めた確認書(甲二五)が取り交わされた。

そして、同日午後二時三〇分から午後五時三〇分までの間、団体交渉を行ない、本件組合からは組合員一五名全員が参加した。その際、被告は、賃金について、本件組合の一〇パーセントの賃上げ要求に対し、平成三年度国家公務員の賃金と被告の賃金の差を三年間で解消することを目標とし、次年度は、とりあえず、4.9パーセントの賃上げを行うこととし、被告から賃金表を提示することとなった。さらに、同日の交渉では右確認書のうち、住宅手当の支給、通勤手当の全額支給については、被告が受け入れを承諾し、その余の議題は継続審議することになり、次回期日は同月一四日とされた。

18  なお、同年一一月一一日、被告学園の教諭村上某の女生徒との間の不祥事に関して、毎日新聞社の記者が堀口に対し、取材を申し込んだところ、堀口は、「記事にすると学校は大変な事になる。記事にするのはやめてもらいたい。」などと回答していたが、同年一二月一〇日、被告の男性教諭が女生徒にいたずらをしたとして退職した事実が、朝日新聞の朝刊に報道された(乙一五)。これに関し、被告は、右報道が本件組合が新聞社に通報したためであると推測し、組合への不信感が募った。

19  同月一四日、本件組合員が全員参加して、団体交渉が実施された。しかし、賃金交渉は難航し、被告から公平な賃金表を作成するため、本件組合、被告と非組合員三者による賃金小委員会を設置する旨の提案がなされたが、堀口委員長らの容れるところとはならなかった。そして、本件組合側が賃金以外の確認書(甲二五)に定められた事項の交渉に入ろうとしたところ、被告側は団交を終わり退席するに至った。

そこで、本件組合は、同月一七日、抗議文、団体交渉申し入れ、冬期一時金仮払い要求書(甲二六)を提出して、再度団体交渉を申し入れたりしたが、被告の応じるところではなかった。

なお、同月二一日には、非組合員に対し、冬期一時金が支給された。同月二四日、本件組合は、本件組合員に対する冬期一時金の内金支払要求書(甲二七)を提出して、支払を求めたが、当面そのままで翌年になって支給された。

20  平成四年一二月一四日の決裂後、堀口委員長からトップ会談の申し入れがあり、その中で労連に加盟して闘争の拡大を示唆したりしたため、被告は、遂に同月二一日と二二日の理事会で本件懲戒解雇処分を決定し、同月二五日、正規に職員会議を開いて懲戒委員を選出できる状態ではないと判断し、懲戒委員として、非組合員である山崎及び金出各教諭を選任して、堀口及び原告らの懲戒を諮問し、解雇を認める旨の回答を得た。

なお、原告らに対する弁明手続は行われなかった。

そして、同月二六日、被告から、堀口及び原告らを懲戒解雇処分とする通知がなされた。

なお、その後堀口については被告が円満退職を認めて退職扱いとされた。

二  原告らの組合活動の正当性の存否に関して

1  煙突闘争、職員室内のビラ貼付及びプラカードの掲示について

煙突闘争は、団体交渉の実現を図るために、組合員の団結を固めると共に、使用者に対しては示唆、第三者に対しては宣伝を行う目的をもったものと認められる。そして、本件での態様をみるに、職員室内の各組合員の机上にボール紙を円筒状にして色画用紙を貼って、その表面に黒字で「学校運営の民主化」等との文言を記載したもので、これを平成四年八月二一日より開始し、殊に同年一〇月一六日以降は、煙突を約二倍に増やして被告の撤去の警告にもかかわらず相当期間林立し続けたものであって、同室の非組合員のみならず、入室してきた生徒の目に触れるのは明らかである。

また、職員室内のロッカーに貼られた本件組合の要求を訴える内容の「九教組ニュース」のビラや同室内に掲示された「九州女子学園民主化、ワンマン許すな」とのプラカードも同様の性格のものである(なお、プラカードの掲示については、原告らはたまたま置かれていたものと主張するが、本件組合委員長堀口の机上に一定期間置かれていた状況からして組合活動として行われたものと認められる。)。

そうすると、これらはいずれも被告の施設管理権の侵害として正当性を欠くものといわざるをえない。

2  リボン闘争について

リボン闘争は、煙突闘争同様団体交渉の実現を図るために、組合員の団結を固めると共に、使用者に対しては示威、第三者に対しては宣伝を行う目的をもったものと認められる。

そして、本件での態様をみるに、本件組合員は、その胸に「団結」、「闘争団結」あるいは「学園の民主化」の文言が記載された赤いリボンを、授業中を含めて職場内で着用し、かつ平成四年九月一日から一二月三日まで被告の中止の警告にもかかわらず、相当期間継続して着用していたのであって、労働者の職務に専念すべき義務に違反し、かつ非組合員のみならず、生徒に対し与えた影響も否定し得ない。

そうすると、リボン闘争も正当性を欠くものといわざるをえない。

3  生徒に対するビラの配付について

生徒に対するビラ配布は二回にわたり実施されており、いずれも終礼後、各生徒に対し配布されたものである。

そして、配布された各ビラの内容は、学園の教育実情のほか、貢理事長の不出勤、教頭の無資格や貢理事長・俊一副校長に対する個人批判的内容も含まれている。しかし、その主眼は学園の教育事情の問題点を訴えるというものであり、また、甲四三(地方労働委員会での原告勝田に対する証人調書)、原告勝田本人尋問の結果によれば、右各ビラは、生徒を通じてその父兄へ配布させたものであることが認められ、これらに照らすと、右各ビラの生徒を通じた父兄への配布行為は、生徒に対する教育的配慮にいささか欠けたものであって不当性が窺われるが、その程度はさほどのものではないというべきである。

4  デモ行進について

本件組合が行った職場外でのデモ行進に際し、複数の生徒が参加しているところ、被告は、右生徒らは本件組合が参加させたものであると主張している。

しかし、本件組合が生徒に対し積極的にデモ参加を求めたことを認めるに足りる的確な証拠はなく、むしろ、甲四三、乙二七(地方労働委員会での森委員長に対する証人調書)、原告勝田本人尋問の結果によれば、本件組合としては、その際デモ行進に生徒が参加することについては好ましくないものとして、生徒に対し早く帰るように指導していたことが認められる上、右デモ行進を掲載した新聞(乙一四)にも、デモに参加した生徒らの自主的に参加したとの談話が載っている。そうすると、生徒のデモ行進への参加は生徒自身による自発的な行動であったものというべきである。

5  授業を通じた生徒に対する組合宣伝活動等について

確かに学級日誌の生徒の記載とこれに対する担任教師の記載(乙一六の1ないし10)及び教室内の生徒による新聞記事やビラの掲示(乙七、一一)からすると、担任教諭らにおいて生徒に対する宣伝活動や支援運動等がなされたのではないかとの疑問を抱かせなくはないが、原告らが自らあるいは組合執行部として組合員を指揮・指導するなどして、右宣伝活動等をさせた事実を認めるに足りる確実な証拠はない。

もっとも、平成四年九月一七日の団体交渉の議事録(乙二九)には、当時本件組合の委員長堀口において「われわれが笛吹いたら、五〇〇何十人子供がみんな運動場に集まりますよ。」等の発言をなしているが、他方で堀口が「われわれは子供を押さえとる。お前らには関係ないと。」とも発言しており、また、右発言が団体交渉の場面での出来事であることも考慮すると、これをもって右事実を裏付ける的確な資料ともなしえない。

6  学園不祥事の新聞社通報について

被告は、本件組合が被告に勤めていた教諭において女生徒にいたずらをしたとして新聞社に通報し、そのため新聞に掲載され、被告の名誉が毀損されたと主張し、証人近藤俊一は、これに沿う供述をなし、同人作成の同趣旨の陳述書(乙二三)も存在する。

しかしながら、原告勝田本人尋問の結果によれば、本件組合としては、毎日新聞記者に対して、記事にしないように申し入れていたことが認められ、また、新聞報道を行ったのは先に本件組合と接触していた毎日新聞社ではなく、朝日新聞社であること等に照らすと、前掲各証拠はにわかに採用できず、他に本件組合が新聞社に対し通報したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

7  労働歌の合唱について

被告は、組合員らが平成四年一〇月二六日、会議室で労働歌を合唱したと主張し、証人近藤俊一もこれに沿う供述をしているが、右日時に、原告らが会議室を使用した事実を裏付ける客観的な証拠はないばかりか、同証人の供述によっても放課後の出来事であって、いささか不穏当な行為であったと評すべき程度のものである。

三  本件懲戒解雇処分の相当性に関して

1  ところで、被告の就業規則(乙二)六二条中には、被告の教職員に関して、「注意を受けてもなお勤務成績が著しく不良で改まる見込みがないと認められたとき」(二号)、「学園の名誉を毀損し、又は信用を傷つけたとき」(三号)、「故意に学園の秘密事項、又は不利益事項を他人に漏らしたとき」(四号)、「越権専断の行為をなし学園の秩序を乱したとき」(一〇号)、「その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき」(一四号)等は、予告期間を置かず即時解雇(懲戒解雇)できる旨定められているが、懲戒解雇処分は、懲戒処分の中でも被懲戒者の身分を剥奪するという点において、最も重大な処分であって、右処分を選択するに当たっては、懲戒事由に該当するとされる行為の態様のみならず、その原因、動機、結果及び対外的に与えた影響の外、被懲戒者の身上経歴、処分歴、態度、処分が与える影響等を総合してなされるべきであって、当該行為と処分とは、社会通念上合理性を欠くものであってはならないというべきであるから、右見地に照らして、本件懲戒解雇処分の有効性如何について検討する。

2  なるほど、前記のとおり原告らの闘争戦術としてなした煙突の林立、リボンの着用、プラカードやビラの掲示、生徒を通じたビラ配布等の一連の行為はその態様・期間等に照らし行過ぎで違法であり、正当な組合活動とはいえず、学園の職場規律を乱し、生徒に対する教育的配慮に欠けた面が窺われ、就業規則中の懲戒解雇事由に一応該当し、被告のなした本件懲戒解雇処分も首肯できそうではある。

3(一)  しかしながら、事の発端を仔細にみるに、前記のとおり、本件組合は平成四年二月から賃上げや学園の民主化要求等を掲げて団体交渉を求めていたが、被告は、学園の再建を計る一方で同年五月一八日、本件組合に対し、従来は実施されていなかった事前の事務折衝を今後前提とすることとし、そこで団体交渉の日時、議題等を定める旨通告していることが認められ、以降同年八月までの団体交渉申し入れに対しては、事前折衝をなしていないとして、組合からの団交要求を拒絶している。もっとも、その間の同年六月二二日団体交渉がもたれたものの、教頭資格のない渡辺教頭の出席問題で紛糾し団体交渉事項についての交渉はなされていない。

また、同年九月の団体交渉については、同月五日に、被告からの申し入れを受けて、事前折衝が実施された上、同月七日と一七日に一応団体交渉が開かれたが、被告側において本件組合の求める賃上げ交渉には応じたものの意見に隔たりがあり、またその余の学園の民主化等の要求については一応の交渉はなされたものの、交渉すべき事項ではないなどとして妥結するには至らなかったところ、被告は、同年一〇月以降、本件組合との事前の事務折衝等においても、本件組合の提示した交渉要求項目については賃金のみに限って交渉に応じるとして、その余の要求項目については、団体交渉の実施を拒絶してきている。

ところで、団体交渉の対象事項は、労働者の労働条件その他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、これに係る使用者に処分可能な労働条件その他の待遇、人事に関する事項、経営・生産に関する事項、団体的労使関係の運営に関する事項は団体交渉議題としての適格性を有すると解するのが相当であるところ、被告は、賃金に関する事項に限るとして、本件組合によるその余の私学助成運動の協力体制の確立、学校五日制検討委員会の設置、専任教員の増員、学園の民主的運営、人事組織の民主化(部長公選制)、評議員の人選等といった交渉議題について、団体交渉に応じられないとしているが、右議題は被告教職員の労働条件や団体的労使関係の運営に関る事項であるというべきであって、被告がこれらの議題を経営権に属する事項であるなどとして、具体的な理由を示さず頑なに団体交渉に応じないのは、誠実交渉義務に反し、正当な理由なく団体交渉を拒絶したものと評価しうるものである。

したがって、本件組合が再三団体交渉要求を繰り返していたのに対し、被告側においてこれに誠実に応じようとせず、そのため労使対立を深めていったもので、被告側の組合対応にも相当の問題があり、もう少し賢明な対応をしていれば本件のような事態に至らなかったものといえる。

(二)  また、本件組合と被告との団体交渉をめぐる労使の対立は、県私教連の森委員長と被告代理人の春山弁護士らが仲に入って、平成四年一二月五日、両者間において、労使紛争を解決し、正常な労使関係を構築するため団交ルールを定めた確認書が取り交わされ、これを契機に一旦は収束して、その後これに従って団体交渉も開かれるに至っており、本件組合が採用した戦術も、行過ぎがあったにせよ、それなりに必要がなかったわけではない。

それに、本件組合の採用した戦術により被告学園の業務が多少阻害され、また生徒にも何らかの影響を及ぼしたことが推察されないではないが、被告学園の授業等の業務に著しい支障を及ぼしたとか、あるいは生徒に対して悪影響を与えたとかの事情は証拠上本件を通じて窺知することもできない。

(三)  そして、右のような本件全体を通じてみられる使用者側の態度等に加え、原告らは、共に一五年以上にわたり被告に真面目に勤務し、本件懲戒解雇処分以前には何ら処分歴がないこと(証人近藤俊一、原告ら各本人)、本件で主導的役割を果たしたと推察される本件組合の委員長の堀口が懲戒解雇処分を受けながら、その後円満退職の扱いとされていること等にも照らせば、前記のとおり原告らの頑なで拙い対応にも問題があることは否めないとしても、原告らに対して直ちに重大な不利益を負わせる懲戒解雇をもって臨むのはいささか酷であり、被告による原告らに対する本件懲戒解雇処分は合理的な相当な理由を未だ欠くものである。ほかに、本件懲戒解雇処分を相当と判断するに足りる確実な証拠はない。

4 そうすると、原告らに対する本件懲戒解雇処分は、解雇権の濫用として無効というべきであるから、原告らと被告間には有効な労働契約が継続しているものである。

四  賃金請求について

被告の給料支給日が毎月一八日であること、平成四年一二月二六日の本件懲戒解雇処分後、被告から原告らに対し、賃金を支給されていないことは当事者間に争いがない。

甲二八及び同二九によれば、補習手当については有無ないし額が一定しておらず、恒常的な支給とは認められないので、原告らの賃金の額については、これを除いた基本給及び諸手当の限度で認めるのが相当である。そして、これを前提とする、原告らの平成四年一〇月から一二月までの基本給及び諸手当の合計手取額は、原告勝田については七九万〇二五一円、原告永井については九〇万七五六一円となるところ、右合計額をそれぞれ三か月で割ると一か月当たりの賃金は、原告勝田については二六万三四一七円(円未満切捨て、以下同じ)、原告永井については三〇万二五二〇円をそれぞれ下らないことが認められる。

そうすると、原告らの賃金請求はそれぞれ理由がある。なお、労働契約上の地位が訴訟によって確定すればなお賃金を払わない特段の事情は一般には認め難いから、将来の賃金請求の必要性の限度は本判決確定に至る月までとするのが相当であり、原告らの訴旨もこれに悖るものではないと思料する。

(裁判長裁判官小山邦和 裁判官永谷幸恵 裁判官村田龍平は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官小山邦和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例